ディープハウス、ゲットーハウス、ジャッキン...音楽と身体が織りなすハウスダンス:NY vs Chicago スタイルの系譜と技術的特徴
ハウスダンスにおける地域性の探求:ニューヨークとシカゴのスタイルの比較
ハウスダンスは、1980年代初頭にシカゴで生まれ、その後のニューヨークでの発展を経て世界に広まったダンススタイルです。そのルーツが特定の都市、特に音楽シーンと密接に結びついていることから、地域によるスタイルの差異はハウスダンスの重要な特徴の一つとして認識されています。今回は、ハウスミュージック発祥の地であるシカゴと、ダンススタイルとして独自に発展したニューヨークにおけるハウスダンスのスタイルの違いに焦点を当て、その歴史的背景、音楽性との関連、そして具体的な技術的特徴について考察を進めます。
シカゴスタイル:音楽との原始的な繋がり
シカゴはハウスミュージックが誕生した都市であり、伝説的なクラブ「The Warehouse」や「The Music Box」を中心に独自のダンス文化が育まれました。シカゴにおけるハウスダンスは、より音楽、特に初期のハウスミュージックのリズムやヴァイブに根ざした、プリミティブでフロアに吸い付くような感覚が特徴とされることが多いようです。
具体的な技術としては、「ジャッキン(Jacking)」と呼ばれる体幹を波打たせるような動きが非常に重要視されます。これは、ハウスミュージックの反復するリズムやベースラインに合わせて、体全体でグルーヴを表現する基本的な動作です。足元のワーク(Footwork)も存在しますが、ニューヨークスタイルに比べると、より重心を低く保ち、フロアとの一体感を重視する傾向が見られます。音楽ジャンルとしては、初期のディープハウスや、よりアグレッシブなゲットーハウス/フットワーク(現在のダンススタイルとしてのFootworkとは異なる文脈です)といった、シカゴ特有の音楽との結びつきが強く、その多様なリズムパターンへの身体的な反応がスタイルを形成しています。シカゴスタイルの担い手としては、DJsであるFrankie KnucklesやRon Hardyといった音楽のオリジネーターに加え、Vinceなどダンスサイドからの貢献者も多くいらっしゃいます。
ニューヨークスタイル:洗練された技術と多様性の融合
ニューヨークは、シカゴで生まれたハウスミュージックが伝播し、ダンススタイルとして爆発的に発展した都市です。ニューヨークにおけるハウスダンスは、シカゴのルーツを継承しつつも、他のダンススタイル(例:タップ、ジャズ、サルサ、カポエイラ、さらにはWaackingやVoguingといったクラブダンス)からの影響を受け、より洗練され、技術的に多様なスタイルとして確立されました。
ニューヨークスタイルの特徴は、軽やかでリズミカルな足元のワーク(Footwork)の豊富さ、「Lofting」と呼ばれる空間を使った浮遊感のある動き、そして上半身や腕の表現力の豊かさです。音楽へのアプローチも多様で、ディープハウスだけでなく、ガラージ、ラテンハウス、アフロハウスなど、ニューヨークの多様な音楽シーンに合わせてスタイルも進化しました。Ejoe Wilson、Brian Green、Karizma (ダンスとしての) など、数多くのパイオニアやイノベーターがこのスタイルを築き上げ、複雑で創造的なステップやフローを生み出してきました。シカゴが「ジャッキン」に代表される体幹のグルーヴを核とするならば、ニューヨークはよりステップと身体全体の連動性、そしてフロアを広く使う自由な表現に重きを置いていると言えるかもしれません。
スタイルの差異を生んだ背景と現代への示唆
これらのスタイルの差異は、単なる技術的な違いだけでなく、各都市のクラブ文化、音楽シーンの特性、そして地理的な隔たりが生んだ自然な進化の結果と言えます。シカゴがハウスミュージック誕生の地の原始的なエネルギーを体現しているとすれば、ニューヨークは他の文化との交流の中で、より洗練され、表現の幅を広げていったと言えるでしょう。
現代のハウスダンスシーンにおいては、これらの地域的なスタイルは互いに影響を与え合い、融合し続けています。インターネットの普及により、世界中の情報やスタイルにアクセス可能になったことで、純粋な「シカゴスタイル」や「ニューヨークスタイル」を定義することはより困難になっているかもしれません。しかし、そのルーツを知ることは、ハウスダンスの音楽性や文化的な背景を深く理解する上で不可欠です。
現在、皆さんが探求されているハウスダンスは、どのような地域の、どのような音楽的影響を受けているでしょうか。あるいは、ご自身の経験から、特定の地域のハウスダンスに感じる独自性や技術的な特徴について、何か共有できる視点はありますでしょうか。この広場で、地域性とハウスダンススタイルの奥深さについて、さらに知見を深めることができれば幸いです。