シャシュマコムと舞踊:ウズベキスタン、ブハラ、ホレズム、フェルガナに見る古典舞踊の様式と技術
中央アジア古典舞踊への誘い
中央アジア、特にウズベキスタンとタジキスタンに伝わる古典舞踊は、シルクロードの中継地として栄えたこの地域の豊かな歴史と多様な文化の影響を色濃く反映しています。イスラーム文化、ペルシア文化、テュルク文化などが複雑に intertwined し、独自の芸術形式を育んできました。これらの古典舞踊を理解する上で不可欠な要素の一つが、この地域の古典音楽である「シャシュマコム」との関係性です。本稿では、シャシュマコムと古典舞踊の結びつき、そしてウズベキスタン国内における主要な地域スタイル(ブハラ、ホレズム、フェルガナ)に見られる様式と技術の違いについて掘り下げてまいります。
シャシュマコムと舞踊の響き合い
シャシュマコム(Shashmaqom)は、「六つのマコム」を意味し、ウズベキスタンとタジキスタンに共通する伝統的な古典音楽形式です。器楽と声楽が組み合わされ、特定の構造(イシュケマコム、ムシキロット、サキル、フタチェなどのパート)と旋律定型(マコム)に基づいて展開されます。このシャシュマコムは、単なる伴奏音楽ではなく、古典舞踊の構造、雰囲気、そして感情表現の基盤となっています。
舞踊は、シャシュマコムのリズム、旋律、そして歌詞の内容と密接に連動しています。例えば、ゆっくりとした叙情的なパートでは滑らかで優雅な動きが、リズミカルで力強いパートではよりダイナミックなステップや回転が用いられます。手の動きや顔の表情は、音楽の感情表現を増幅させ、歌詞の持つ物語性や詩的な世界観を視覚的に表現する重要な役割を果たします。舞踊手は、単に音楽に合わせて動くのではなく、シャシュマコムの深い精神性や哲学を身体を通して体現することが求められます。
地域に根ざす舞踊スタイル:ブハラ、ホレズム、フェルガナ
ウズベキスタンの古典舞踊は、主にブハラ、ホレズム、フェルガナの三つの地域にそれぞれ独自のスタイルが存在します。これらのスタイルは、地理的な位置、歴史的背景、支配的な文化要素、そしてシャシュマコムの地域的な特徴によって形成されてきました。
ブハラ様式
歴史的に政治・文化の中心であったブハラの古典舞踊は、宮廷文化の影響を強く受けており、洗練された優雅さと抑制された表現が特徴です。繊細な手の動き(特に指先の表現)が重視され、身体の軸は安定しており、滑らかな体重移動と緩やかな回転が多く見られます。足元のステップは控えめであり、上半身、特に手と顔の表現によって感情や物語が紡ぎ出されます。衣装も豪華で格式高いものが用いられます。ブハラ様式は、シャシュマコムの規範的な構造に忠実に対応する傾向があります。
ホレズム様式
シルクロードの交易都市として栄え、独立した王国でもあったホレズムの古典舞踊は、より土着的で力強いエネルギーに満ちています。大地を踏みしめるような力強いステップや、跳躍、素早い回転が特徴的です。手や腕の動きもブハラに比べて大きくダイナミックであり、全体的にエネルギッシュで開放的な印象を与えます。儀礼的な要素やシャーマニズム的な影響が見られることもあり、男性舞踊の力強さも際立ちます。ホレズムのシャシュマコムもまた、より野性的で素朴な響きを持つと評されることがあります。
フェルガナ様式
肥沃な盆地であるフェルガナ地方の古典舞踊は、叙情的でロマンチックな雰囲気を持ちます。流れるような腕の動き、波打つような身体の動き、そして繊細で表現豊かな手の動きが特徴です。特に、ショール(ルパンドゥ)を用いた踊りはフェルガナ様式を代表するものの一つであり、ショールが感情や風の動き、自然の美しさを表現する重要な小道具として用いられます。ステップは軽やかで、全体的に女性的な優雅さが際立ちます。フェルガナのシャシュマコムも、より旋律的で親しみやすい特徴を持つと言われます。
技術的特徴と継承
これらの古典舞踊に共通する技術的特徴としては、身体の軸を常に意識すること、腕や手の表現力の豊かさ、そして音楽との一体感が挙げられます。手の動き一つをとっても、指先の角度、手首の柔らかさ、腕全体のラインなど、非常に細やかな注意が払われます。これは、手の動きが言葉にならない感情や情景を伝える重要な手段であるためです。また、衣装(特に華やかなガウンや帽子)も舞踊の一部として機能し、動きの軌跡を美しく見せたり、特定のポーズを強調したりする役割を果たします。
これらの古典舞踊は、ソ連時代には「民族舞踊」として一定の保護と再編が行われましたが、同時に伝統的な文脈や深遠な精神性が失われた側面も指摘されています。現代では、教育機関での体系的な教授や、伝統的な師弟制度による継承が行われていますが、グローバル化や社会の変化の中で、いかにその本質を失わずに次世代に伝えていくかが課題となっています。
結び
ウズベキスタンとタジキスタンの古典舞踊は、単なる身体表現ではなく、音楽、歴史、文化、そして人々の精神性が織りなす複合的な芸術形式です。シャシュマコムとの深いつながり、そして地域ごとの独自の発展は、この舞踊の多様性と奥深さを示しています。これらの舞踊様式と技術、そして背景にある文化を深く理解することは、中央アジアという地域の豊かな芸術遺産への理解を一層深めることにつながるでしょう。このテーマについて、皆様の知見や経験を共有いただければ幸いです。